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春秋社 メールマガジン【Vol.060】
   2024年 3月 1日配信
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 巻頭言
 
海外出張、陸から行くか? 空から行くか?
 
島国に住んでいる私たちにとって、答えはほぼ「空」一択でしょう。それでは時を遡ること四半世紀、世紀末のナイジェリアにあなたがいたとしたら、どちらにしますか?
 
90年代のナイジェリアは、度重なるクーデターと長年の軍政により荒廃し、最大都市ラゴスは「世界一危険な都市」と言われたほど。この治安最凶都市ラゴスに、ひょんなことから突然赴任した 石川コフィさんが当時を振り返る回想録を上梓されました。その本が 『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画:そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話』。春秋社史上(おそらく)最も長い副題で、関係者を困らせています(本当にすみません)。編集担当の私も、タイトルを正しく諳んじる自信はありません。
 
本書に描かれた90年代は、汚職と腐敗が蔓延し、インフラは壊滅的で警察も賄賂を吸い取る以外にはほとんど機能していない有り様なので陸路での移動は危険と隣り合わせでした。武装強盗が跋扈し、車に向かって物を投げたり罠を仕掛けたりして虎視眈々と狙ってきます。路上には物売りや汚職警官が溢れ、近寄ってくる人々はまさに「立てば強盗、座れば詐欺師、歩く姿はボッタクリ」だったとか。だからといって空路を使えば安心という訳でもありません(その理由は本書でお確かめください)。
 
混沌の元凶、ノーベル賞作家や民主活動家などを次々と投獄し処刑していた独裁者のサニ・アバチャは数億ドルもの資産を横領したと言われていますが、1998年に急死。後継者は突然民主化を宣言し、オルシェグン・オバサンジョが大統領に就任しました。民主化したからといって国家が抱える問題が片付くほど単純ではありませんが、独立以来民族対立と内紛が絶えなかったこの国で、国民の意思で選ばれた大統領がいることは大きな意味を持っていました。著者の石川さんは赴任中にこの民主化の過程を目撃し、本書の第5章に詳しく描いています。強権的な政治家が世界で存在感を増し、政治資金をめぐる問題が顕在化する現在に読みたい内容です。
 
民主化の生き証人となった石川さんは帰国後、東京・神楽坂でアフリカン・バー〈トライブス〉を開業し、現在は移転先の杉並区・荻窪で営業しています。送別会シーズンのこれから、二次会にアフリカのビールを片手に別れを惜しむのもいいかもしれませんね。 (ら)

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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼受賞情報
▼新刊案内(2月刊行)
▼近刊案内(3月刊行予定)
▼重版情報
▼編集後記
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webマガジン「web春秋 はるとあき」

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●好評連載●
南台湾各地を舞台に、歴史や伝承を辿りながら知られざる台湾の姿を描き出すエッセイ。

人生というクソゲーを遊んで楽しい本当のゲームに変える方法を探る。

〈坐禅〉とはいったい何か。道元の「坐禅箴」の身読を通し、その「意味」と「願い」を語る。

○「文字の渚」   岩切 正一郎
文学、詩歌、戯曲、映画。古今東西の表現芸術のなかから、言葉の「変形」を読み解き、芸術の持つ力を再考する。

Close-up! この一冊

仏教との接点はお葬式ぐらいしかない人がほとんどと思いますが、本来の仏教は人々を導くための教えです。本来の意義を失い先細りするだけの仏教を改革するための提言をするのが 『日本仏教に未来はあるか』です。その中から出家者以外の人の協力を必要とする戒律復興について述べた箇所を紹介します。


哲学は何よりも真理を探究する営みであり、自分の人生を顧みず真理のために邁進しなければならない……のだろうか? いや、哲学者だって幸せになりたいのだ。そうしたコンセプトで書かれた 『幸福をめぐる哲学者たちの大冒険! 15の試論』から「まえがき」を紹介する。

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト”  「じんぶん堂(powered by 好書好日)では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。 ※毎週木曜日更新(月3回)
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受賞情報
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第74回芸術選奨文部科学大臣賞〔評論部門〕受賞

鈴木聖子氏が 『掬われる声、語られる芸――小沢昭一と『ドキュメント 日本の放浪芸』』 にて、第74回芸術選奨文部科学大臣賞〔評論部門〕を受賞されました。


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新刊案内(2月刊行)
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『菩薩地』「分別」から読み解く唯識入門。

ポリネシア、核開発をめぐる権力の人類学。

*今月の営業部イチオシ本*


椎名 由紀 横田 南嶺 著
A5判/192頁/1,760円

2/8 ニッポン放送「垣花正あなたとハッピー!」に椎名由紀先生出演で話題!
身心の様々な不調をなくす呼吸と姿勢を、江戸の禅僧・白隠の著作『夜船閑話』から学ぶ。
重版2刷出来!
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近刊案内(3月刊行予定)
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『[新・興福寺仏教文化講座10] 『般若心経幽賛』を読む――唯識の修行』
吉村 誠
四六判/352頁/2,970円 
法相宗の慈恩大師による『般若心経』の注釈書の解説。空思想を代表する経典を瑜伽行派の非空
非有中道の立場から修行の重要性を強調。〈新・興福寺仏教文化講座10〉
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『浄土の歩き方――行きたいと思ったときに来てくれるのが阿弥陀の国!』
英月
四六判/280頁/2,420円 
旅する感覚で学ぶ『阿弥陀経』入門。浄土名物ハックドクスイの味と共に学ぶ、お釈迦さまが祇園精舎でみずから説いた教えとは? 日常をしずかに照らす極楽浄土への旅案内。
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『密教の〈こころ〉』
中村 公昭
四六判/224頁/1,980円 
弘法大師空海の教えと深くつながる、仏性を輝かせて現在を生きる「自身即仏」の生き方と調和を愛し思いやりに満ちた密教のこころを、一年を通して切々と語る仏教エッセイ。
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『[東西宗教思想家たちのシュンポシオン]親鸞――『歎異抄』を手がかりとして』
伊東 益 著
四六判/344頁/3,960円 
絶対他力や悪人正機といった親鸞思想の核心をアウグスティヌスやパウロとも比較しつつ明らかにし、その思想が果たして仏教といえるのか、ブッダの思想まで遡って探究する。
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『[シュタイナー社会論入門] [1]『社会の未来』を読む』
高橋 巖
四六判/328頁/3,960円 
独創的な「社会有機体三分節化」思想の射程。現代ベーシック・インカム論の思想的根拠を展開する講義録『社会の未来』を今日的視点から読み解く。新しい豊かな社会への道。
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『VTuberの哲学』
山野 弘樹 著
四六判/306頁/2,640円 
VTuberは中の人にも虚構のキャラクターにも還元されないという「非還元主義」に立ち、VTuber独自の存在様態を理論化する。
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『ソマティック・エクスペリエンシング入門――トラウマを癒す内なる力を呼び覚ます』
P.A. ラヴィーン、アン・フレデリック 著 / 花丘 ちぐさ
四六判/360頁/2,970円 
身体に閉じ込められた過去=トラウマのエネルギーを解放する革新的トラウマ療法。サヴァイヴァー、トラウマケアに関わる人に贈る希望のビジョン。世界100万部ベストセラー。
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『マルク・ミンコフスキ――ある指揮者の告解』
マルク・ミンコフスキ 著 / アントワーヌ・ブレ 編 / 岡本 和子 訳 / 森 浩一 日本版監修
四六判/336頁/3,300円 
バロックからロマン派まで、あらゆるレパートリーを手がける指揮者ミンコフスキが、生い立ちや音楽家としての歩みを語る。特別インタビューやディスコグラフィなども充実。[口絵16]
♪著者来日コンサート情報♪
オーケストラ・アンサンブル金沢
・第479回定期公演フィルハーモニー・シリーズ:3月15日(金) 石川県立音楽堂 コンサートホール
・第40回東京定期公演:3月18日(月) サントリーホール 大ホール

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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重版情報
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四六判/280頁/1,320円

田を耕さず、肥料をやらず、農薬などまったく使わず、草もとらず……それでいて豊かな収穫をもたらす、驚異の〈自然農法〉――その思想と実践を易しく説いたロングセラー。(1983年初版)【新版35刷】


四六判/224頁/3,080円

♪ブルックナー生誕200年♪
独自の小宇宙を形成しているブルックナーの全交響曲を体系的かつコンパクトに解説。交響曲創作の背景と各交響曲の本質に迫る。【3刷】

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□編集後記□
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 本日3月1日は「ビキニ・デー」です。1954年のこの日、太平洋のビキニ環礁でアメリカが水爆実験を行い、附近を航行していた日本のまぐろ漁船「第五福竜丸」の乗組員が被曝したことに因みます。実験によってマーシャル諸島(現マーシャル諸島共和国、当時は国連の太平洋信託統治領としてアメリカに統治されていた)の地域住民も、ガンや甲状腺異常をはじめさまざまな健康被害に襲われました。
 このたび、小社より刊行した 内山田 康 著 『美しい顔――出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』では、上記のマーシャル諸島のケースと同様、フランスから遠く離れた海外領土の東ポリネシアで行われた核実験を取り上げています。本国が植民地や海外領土などの“周縁”を使い捨てにし、そこで核実験や放射性廃棄物の投棄を行うことを可能にした入れ子状の権力の仕掛けを描き出しています。日本で東京都心から離れた地方に原発が建てられているのも、“周縁”を使い捨てていると言える構図かも知れません。「ビキニ・デー」のこの日に、ぜひ読んで欲しい一冊です。 (E)

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□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(月はじめ)配信


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