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春秋社 メールマガジン【Vol.059】
   2024年 2月 1日配信
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 巻頭言!

 西暦2024年は令和6年、春秋社が創業してから106年、「あけましておめでとう」というのも憚られる大震災で幕を開けることになりました。へしゃげた民家、横倒しになったビル、輪島の朝市は業火のなかに灰燼に帰し、海辺の家々は津波に押し壊され、道路のアスファルトは網の目のように割れ、上下左右にのたうち、あるいは崩落した土砂や岩に埋まる。……こんな光景をふたたび見ることになるとは思いませんでした。大勢の人がつぶれた家屋の下敷きになったり、津波や山崩れの犠牲になりました。

 救出や援助に向かおうにも、道路が寸断されて陸路は使えず、海底の隆起で港に船が接岸できない。おまけに能登半島は山がちで、開けた空間が少ない土地柄、ヘリコプターが接近できる場所も限られています。

 自衛隊員の方々が道なき道を徒歩で救援物資を届け、ホバークラフト揚陸艇LCACが隆起して遠浅になった海岸へ重機や物資を運び、建設会社の人々も総動員で破壊された道路を工事するといった地道な作戦が功を奏して、少しずつ復旧してはいるようですが、ここまで破壊された町や村が元に戻ることは可能なのか。ネットでは、こんなに危険で、そのうち過疎を免れない町や村は、さっさと捨てて移住したほうがよい、という論すら飛びだしているようです。

 こんなとき、良寛禅師を引きあいに出して、「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候」なんて言いたくなるかもしれませんが、こんなセリフは良寛さんが言うからさまになるのであって、他の人が軽々に言えるセリフじゃない。災難に逢わぬにこしたことはなく、人死にがないにこしたことはありません。

 何よりも、いまはまず復旧・復興です。復興に必要なのはおカネです。着られそうもない古着や賞味期限の切れた食料品を避難所に送って、現場の人の憤激を買っている不届き者もいるようですが、そうでなくても離れたところから現場のニーズを把握するのはむずかしいし、現場のニーズそのものも時々刻々変化しているのですから、送るなら現物ではなく、何にでも使える義援金。要するにおカネです。

 おカネを生みだすために、経済を活性化することは重要でしょう。石川県の馳知事が、X(旧ツイッター)で、石川県に来ておカネを落としていってほしいと呼びかけていますが、経済が活性化して人々に余裕ができれば、そのぶんを支援にもまわせます。財政にだって余裕ができます。

 では、おカネを何に使うのか? 愛社精神あふれる私が正直にいえば、春秋社の本をたくさん買っていただきたいというところですが、いや、別に何でもいいんです。カネは天下のまわりもの。誰かが使ったおカネは誰かの所得。

 そうだ、美食なんてどうですか? 石川の加賀料理は、加賀百万石のバックグラウンドを持つ、日本を代表する料理のひとつです。いまの時期ならズワイガニも堪能することができるはず。

 洋食が好きな人なら、牛フィレ肉のロッシーニ風なんてオススメです。一般的には、レアに焼いた牛フィレ肉の上に、ソテーしたフォアグラを載せて、マデイラワインを使ったトリュフ入りのペリグーソース(甘くてちょい重めのソース)をかけたものだそうで、書いているだけでよだれがでそう。

 さて、そのロッシーニ、言わずと知れた音楽家のロッシーニで、生涯に39曲のオペラをはじめ、たいへんな数の作曲をし、絶大な人気を誇った作曲家です。クラシックに興味のない人でもウィリアム・テル(ギヨーム・テル)序曲なんかは学校の音楽の時間に聞いたことがあるでしょう。しかし彼は同時にたいへんな食通で、前述のフィレ肉のロッシーニ風(正式にはトゥルヌド・ロッシーニ)のほかにもいろいろな料理を考案し、パリで美食家として大評判を得ました。そんな美食家としてのロッシーニのすべてがわかるのが、 水谷彰良 著  『美食家ロッシーニ――食通作曲家の愛した料理とワイン』です。トリュフとフォアグラとマカロニを愛した彼が考案した料理の数々(巻末に50のレシピあり)、書簡や記録からわかる彼が飲んだワイン(ボルドー五大シャトー筆頭のラフィット・ロートシルトをはじめ、いいワインを飲んでるんですよ)、お菓子、そして、「トリュフはきのこのモーツァルトである」といった名言や「食通が高じてパリにレストランをひらいた」といった伝説の真偽など、ちょっと読みだしたらとまらないおもしろさです。

 この本を読んでわかるのは、彼が人生を存分に楽しんだということ。お喋りもうまく、文豪バルザックと酒の飲み比べをし、グルメを唸らせる晩餐会を開催し、晩年の曲には料理の名をタイトルにつける。いや、もう、うらやましいかぎり。

 震災なんかあると、何かにつけ、「大勢の人が死に、多数の人が苦しんでいるときに、不謹慎だ」とか、やくたいもない難癖をつける人も出てきます。サヴァイヴァーズ・ギルトなんていいますが、生き残った人が罪悪感に苦しむこともよくあります。しかし、そんなものは吹き飛ばして、顔をあげて、前を向いて、人生を楽しんでほしいのです。むしろ人生を楽しむのは、生き残った人、いまを生きている人の義務なのです。そして人生を楽しむのに、ロッシーニは最高のモデルになると思うのです。 (K2)

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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼受賞情報
▼新刊案内(1月刊行)
▼近刊案内(2月刊行予定)
▼重版情報
▼編集後記
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webマガジン「web春秋 はるとあき」

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●好評連載●
○「カントの誤診――『純粋理性批判』を掘り崩す」    永井 均
近代哲学を確立したカント『純粋理性批判』を徹底的に読解し、批判することで、近代哲学を解体し、独在論哲学を賞揚する試み。

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト”  「じんぶん堂(powered by 好書好日)では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。 ※毎週木曜日更新(月3回)
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受賞情報
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第75回読売文学賞〔詩歌俳句賞〕受賞

四六変形判/208頁/2,420円

からだもこころも食べ物も飲み物も喜びも悲しみも山も海もみんなアナログ。 第五句集『羽羽』(第51回蛇笏賞受賞)以降の約三〇〇句を厳選。比類なき俳人が瑞々しく詠いあげた日常、そして永遠。

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新刊案内(1月刊行)
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●日本仏教に未来はあるか
平岡 聡
四六判/258頁/2,750円
日本仏教を未来につなぐための提言。

●はじめての人におくる般若心経
横田 南嶺
四六判/272頁/2,200円
この時代におくる、珠玉の『般若心経』講義。

菊判/592頁/24,200円
台密事相研究の重要書8書目を収録。

四六判/352頁/2,750円
あなたに幸福になってほしい幸福論。

沼口 隆 安川 智子 齋藤 桂 白井 史人 編著
四六判/328頁/3,080円
「ベートーヴェン像」の多様な受容をさぐる。



*今月の営業部イチオシ本*


野矢 茂樹 著
四六判/432頁/2,970円

他者の心、規範、行為の意味、コミュニケーションの可能性など現代哲学の根底に渦巻く謎に挑んだ名著が帰ってきた!
思索の発展による変更点を補注に付し、現在の野矢哲学への道のりを「その後の航海」として追補した本書は、野矢哲学23年の歩みの軌跡。

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近刊案内(2月刊行予定)
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『[シリーズ思想としてのインド仏教]心と実存 唯識』
高橋 晃一
四六判/288頁/2,640円
『菩薩地』に唯識思想の淵源を求め、従来注目されてこなかった分別に関する思想に焦点を当てて、『解深密経』『唯識三十頌』へいたるその展開をたどる画期的な唯識の入門書。
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『[新・興福寺仏教文化講座10]『般若心経幽賛』を読む――唯識の修行』
吉村 誠 著
四六判/350頁/2,970円
慈恩大師による『般若心経』の注釈書の解説。空思想を代表する経典を瑜伽行派の非有非空中道の立場から論じ修行の重要性を強調。〈新・興福寺仏教文化講座10〉
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『美しい顔――出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』
内山田 康
四六判/320頁/3,520円
周縁にとって、近代とは、発展とは何だったのか? 仏領ポリネシアで、周縁を搾取するマキネイションと、その中で生きる人々の姿を圧巻のスケールで描き出す民族誌。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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重版情報
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四六判/320頁/2,420円

「私の人生に、生きる意味はあるのか?」この問いを分析哲学的に研究する21世紀英語圏の新しい議論を紹介しつつ、実際に探究する。【2刷】

♪試し読み♪


四六判/196頁/1,870円

期待に押しつぶされそうになりながら、必死にいい娘を演じる女性たち、「墓守娘」。
なぜ母は娘を縛るのか。なぜ娘はNOと言えないのか。膠着した関係から脱出するには。
当事者の証言を元に具体的な解決を見出す、かつてないほど希望に満ちた書。【21刷】

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□編集後記□
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 私たちは、なぜ生きているのか。父親と母親のもとに子どもとして生まれたから? でも「生んでくれ!」と頼んだ覚えはないし……。‘‘私以外私じゃない’’と、あるヒット曲の歌詞にあったけど、そもそもその「私」って、だれのこと? 「私」は何のために「私」として存在し、この人生を生きているのか……。
 アドラー心理学/個人心理学で知られるアルフレッド・アドラーは、「すべての真の「人生の意味」のしるしとなるものは、それらが共通の意味であること――それらは、他の人々が共有でき、妥当なものと承認できるような意味である」(『人生の意味の心理学』)と言った。他者との関係性の中で自己実現することこそが「人生の意味」であるのならば、「私」の人生、といったものなど存在しないかのようにも思えてしまう……。
 「自分の人生って一体何なのか」と考えたことがある人は、少なくないであろう。実は、哲学の世界には、‘‘人生の意味の哲学’’という研究領域が存在している。もう少し正確な言い方をすると、「人生の意味」について分析哲学的手法を用いて研究する流れが、主に英語圏の分析哲学分野から起きているのだ。
森岡正博 蔵田伸雄 『人生の意味の哲学入門』は、繰り返し問われてきた「生きることに意味はあるのか?」という問いに、分析哲学から厳密にアプローチする新たな議論を紹介している。本書は、執筆者10人が「反出生主義」「客観説と主観説」「前期ウィトゲンシュタイン」といったそれぞれの切り口で「人生の意味」を実際に探究しており、哲学書として面白いのはもちろん、日本の‘‘人生の意味の哲学’’の最前線を知ることも出来るという点でおすすめだ。「生きることに意味はあるのか?」――この果てのない問いに、あなたも挑戦してみてはいかがだろうか。 (E)

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□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(月はじめ)配信


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