------------------------------------
春秋社 メールマガジン【Vol.057】
   2023年 12月 1日配信
------------------------------------
 巻頭言!

 19人もの障害者が一度に殺された津久井やまゆり園事件。犯人の男は施設の窓ガラスをハンマーで叩き割って侵入、職員に刃物を突きつけて脅し、個々の障害者がしゃべれるかどうかを問うて、「しゃべれない」とされた障害者の喉に鋭利な刃を突き刺していったといいます。しゃべれるかどうかは知能の確認だったようです。男はIQ20以下を「心失者」と言いました。「化け者」とも言いました。日本の財政難を憂い、障害者は社会の迷惑だ、障害者を殺すのは不幸を減らすためだ、とも言ったのです。
 それは歪んだ独善的な思考。戦慄が走ります。おぞましいと感じます。ナチスが精神・身体の障害者を20万人も殺害した歴史を想起する人も多いでしょう。犯人には死刑の判決が下されました。
 でも、こんな調査があります。医学の進歩によって遺伝子異常による胎児の障害の有無が、ある程度出産前にわかるようになりました。第4回NIPT等の出生前診断に関する専門委員会「NIPT受検者のアンケート調査の結果について」(厚生労働省ホームページ。NIPTとは「新型出生前診断」のことです)によると、検査陽性者、つまり胎児に遺伝子異常があると診断された人は、約80%が中絶を選択しています。
 障害者が殺されることはおぞましいと感じても、胎児に重い障害があるとわかると殺すのでしょうか? 
 あるいは、医学は日進月歩です。遺伝病にもどんどん治療の途がひらき、多くの障害も克服されていくでしょう。でも、なぜ克服するのですか? それは障害が否定的なもの、できればないほうがいいものだからではないでしょうか。遺伝病を治し、障害を克服するのは悪いことなのか? そんなはずはありません。「みんな障害なく、健康でいてほしい」と願うのは、ごく普通の感覚です。
 ごく普通の感覚と犯人の思考の距離は、実のところ、そんなに大きくないのかもしれません。ほんの一歩の差なのです(たとえそれが、とりかえしのつかない一歩だとしても、です)。だから私たちの心のなかに、もやもやしたものを残すのです。
  最首悟先生の 『いのちの言の葉』は、重度の知的障害のある娘を持つ生物学者が、やまゆり園事件の犯人・植松聖に問いつづけた手紙です。まず植松が最首先生に手紙を書いてきたのです。やりとりがはじまり、最首先生に障害者の娘がいることを知る植松は「奥様はどのように考えているのでしょう」と問います。奥様に「大変な面倒を押しつけている」と迫るのです。どう答えるか? 最首先生は考えます。
 この本は、世界を論理で切り分けて、それでも心のうちに残る割り切れなさ、わからなさを直視しつつ、偏見や先入観を乗り超えようとする寛容への試みです。死刑判決の確定後しばらくして、手紙は植松に届かなくなったようです。それでも最首先生は書きつづけます。「考えぬくこと」、それがきっと私たちの未来をひらく一歩となることを信じたいのです。  (K2)

------------------------------------
■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(11月刊行)
▼近刊案内(12月刊行予定)
▼重版情報
▼編集後記
━━━━━━━━━━━━━━━━

webマガジン「web春秋 はるとあき」

━━━━━━━━━━━━━━━━

○新連載○
美術において、見える人と見えない人をつなぐ取り組みは、どのような歩みを経て今日に至るのか。

南台湾各地を舞台に、歴史や伝承を辿りながら知られざる台湾の姿を描き出すエッセイ。

人生というクソゲーを遊んで楽しい本当のゲームに変える方法を探る。
【第15回】私一人の坐禅が世界を救う!

━━━━━━━━━━━━━━━━
★「じんぶん堂」好評連載中!★
━━━━━━━━━━━━━━━━
出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力発信していくプロジェクト” 「じんぶん堂(powered by 好書好日)では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。※毎週木曜日更新(月3回)
━━━━━━━━━━━━━━━━
新刊案内(11月刊行)
━━━━━━━━━━━━━━━━

●[新・興福寺仏教文化講座 1]唯識 わが心の構造――『唯識三十頌』に学ぶ[創業105周年記念復刊]
横山 紘一
四六判/368頁/4,070円
唯識思想の大成者・世親の著作を読み解く。〈新装版〉

●[正法眼蔵 全 新講] 第一巻[創業105周年記念出版]
南 直哉
A5判/440頁/4,400円
無常・無我・縁起から読み解くシリーズ。

●[自由と愛の人智学 3]平和のための霊性――三分節化の原理
ルドルフ・シュタイナー 著 / 高橋 巖
四六判/256頁/3,300円
宇宙と人間の関わりはどう認識されるのか。

●いのちの言の葉――やまゆり事件・植松聖死刑囚へ生きる意味を問い続けた60通
最首 悟
四六判/256頁/1,980円
内なる差別と偏見を克服するために。

●夢幻論――「死なない」思想
佐子 武
四六判/336頁/2,750円
現代人に「生の喜び」を感じられる思想を。

●忘れ難き日々、いま一度、語りたきこと
山崎 剛太郎
四六判/232頁/2,420円
小説家にして詩人、映画字幕翻訳家の肖像。

●紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし
鳥居本 幸代
四六判/240頁/1,980円
時代を超え共感を呼ぶ女性たちのドラマ。

●戦場のピアニスト[創業105周年記念復刊]
四六判/296頁/2,200円
ホロコーストを生き抜いた若き音楽家の実話。〈新装版〉

那須田 務
A5判/304頁/2,970円
教会カンタータをもっとよく知るために。

●[CDブック]実践・阿字観瞑想法[創業105周年記念復刊]
山崎 泰廣
A5判/128頁/3,080円
瞑想指導のCDを付した画期的な実践の書。〈新装版〉


*今月の営業部イチオシ本*


アリス・ボータ 著 / 岩井 智子 岩井 方男 訳 / 越野 剛 監修・解説
四六判/332頁/2,420円

2020年、コロナ禍でくすぶる体制への不満、不正が疑われた大統領選、燃え上がる抗議運動、容赦ない弾圧……独裁者ルカシェンコに立ち向かう女たちを描いた渾身のルポ!
━━━━━━━━━━━━━━━━
近刊案内(12月刊行予定)
━━━━━━━━━━━━━━━
『[續天台宗全書 第III期]密教5――事相2』
天台宗典編纂所 編
菊判函入/592頁/24,200円
『船中鈔』3巻,『息心抄』8巻,『大日経義釈鈔』1巻をはじめ,台密事相研究の重要書8書目を収録。第三回配本。
------------------------------------
『人生の意味の哲学入門』
森岡 正博 蔵田 伸雄
四六判/320頁/2,420円
「生きることに意味はあるのか?」 この問いを分析哲学的に研究する知られざる21世紀英語圏の新しい哲学的ムーブメントを紹介し、各自の観点から実際に探究する入門書。
------------------------------------
『バロックピアノ曲集』
井口 基成 編集・校訂
菊倍判/160頁/2,420円
歴史ある「井口版」が装いも新たにリニューアル! リュリ、クープラン、ラモー、ダカンの楽曲を収録。〈新装版〉

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
━━━━━━━━━━━━━━━━
重版情報
━━━━━━━━━━━━━━━━

四六判/480頁/3,080円

アインシュタインの弟子D・ホームは言う。「宇宙は映像である」――。
奇妙ではあるが科学的に確かな数多くの事例を根拠として構想された、ダイナミックな宇宙観への招待。『ホログラフィック・ユニヴァース ――時空を超える意識』(1994年初版)の改題新装版。【15刷】

━━━━━━━━━━━━━━━━
□編集後記□
━━━━━━━━━━━━━━━━
 このたび創業105周年記念復刊として、 『戦場のピアニスト』を刊行しました。第75回アカデミー賞(R)主要3部門、第55回カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)など、数々の栄誉に輝いた映画『戦場のピアニスト』の原作本です。
 ワルシャワ・ゲットー蜂起から80年となる今年、この映画が4Kデジタルリマスター版として、 12/1より全国の映画館で公開されます(劇場によっては2K上映となります)。
 また、 『戦場のピアニスト』の著者 ウワディスワフ・シュピルマンと彼の息子であるクリストファー、そして彼を救ったドイツ軍将校ホーゼンフェルトの物語である舞台 『ある都市の死』も、2023年12月に東京・大阪で公演されます。
 世界で起きている紛争の情勢が日本でも日常的に報道されるこの時だからこそ、戦争が人間に与える深い傷や戦争そのものの空しさなどについて考えることが、私たちに今求められているのかも知れません。 (E)

━━━━━━━━━━━━━━━━
□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(月はじめ)配信


発行:株式会社 春秋社
〒101-0021 東京都千代田区外神田2-18-6
ホームページ: https://www.shunjusha.co.jp/
Twitter: https://twitter.com/shunjusha/
web春秋 はるとあき: https://haruaki.shunjusha.co.jp/

◆表示価格はすべて税込です

◆書籍のご注文はお近くの書店か小社ウェブサイトをご利用ください
(TEL:03-3255-9611 FAX:03-3253-1384)
━━━━━━━━━━━━━━━━
■バックナンバー

【Vol.056】 2023年 11月 1日 配信

【Vol.055】 2023年 10月 1日 配信

━━━━━━━━━━━━━━━━

※このメールは、以下の方に配信しております

・小社ウェブサイトほかにて11月30日までにメールアドレスをご登録いただいた方
・11月30日までに小社に届いた愛読者カードにメールアドレスをご記入いただいた方

・小社ウェブサイトにて書籍をお買い上げいただき、メールアドレスをご記入いただいた方


◇メールマガジンの配信停止は こちら から