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春秋社 メールマガジン【Vol.049】
   2023年 4月 1日配信
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 巻頭言!
 お経と聞いて普通の人が真っ先に頭に浮かぶのは、たぶん般若心経でありまして、これほど日本人の身近にあって、よく知られたお経もないでしょう。……なんていうと、たとえば「法華経だって知られてるよ」という人もいるでしょうが、法華経は何といっても長い! もちろんお題目だけだと短いですが、それは文字どおりタイトルだけでありまして、内容はわからない。しかし般若心経の場合は、あの短さで内容が完結しているから凄いんです。全文を暗記するのもさほどむずかしくはない長さですし、実際に暗唱できる人もたくさんいます。
 では、短いからといって、簡単かといえば、そんなことはありません。たとえば有名な「色即是空、空即是色」というフレーズ、「色(形あるもの)は即ちこれ空、空は即ちこれ色」って、どういうことかわかりますか?
 余談ですけれど、むかし、確か上座部仏教系の人だったかと思いますが、般若心経は間違っている! と主張したことがあります。論理的に考えるならば、「AはBである」からといって「BはAである」とはいえません。「人間は動物である」といっても「動物は人間である」とはいえないようなものです(ネコやイヌは動物ではありますが、人間でしょうか?)。ということは、「色即是空(色は空である)」といっても「空即是色(空は色である)」とはいえない。ゆえに、般若心経は間違っている、というわけです。
 つまり、この方は「色即是空」を論理学の条件文と考えたわけですね。しかし、どうも「色即是空」や「空即是色」は論理学の条件文ではなさそうです。とすれば、それは、なんなのか。
 というわけで、般若心経はあの短さのなかに、「色」とか「空」とか「不生不滅」といった難解な仏教用語を詰めこんでいるうえに、どういう理屈になっているのかもたいへん難しいのです。
 もちろん「空」については、弊社は  正木 晃 先生の 『「空」論』 というすばらしい本を刊行しておりますので、それをお読みいただければよいし、般若経の思想や中観の思想についても優れた書籍をたくさん刊行しておりますので、それらを次から次へとお読みいただければよいのですが、さはさりながら、般若心経のように身近にあって親しまれているお経を、そんなふうに鹿爪らしくお勉強して分析するのはたいへんですし、無粋と思う人もいるのではないでしょうか。
 そこで超オススメなのが、 前田まゆみ 先生の 『えほん 般若心経』 です。般若心経の凝縮された内容を専門用語なんて使わずに、わかりやすく、しかし格調高く読み解いて、しかも画面いっぱいの柔らかなタッチの絵が、般若心経の世界を体感させてくれるのです。「色」とは、目の前でちょこんと首をかしげる仔猫、生い茂る草むらに色づく小さな花々、水面に揺曳する波が映しだすレース模様――「春は花、夏ほととぎす、秋は月、冬雪冴えて涼しかりけり」(道元禅師)。
 ちなみに私は個人的に「色即是空」より「空即是色」のほうが好きだったりします。すべてが空に収斂していくよりも、空がすべてに顕現していくのです――空へ、雲へ、雨へ、大地へ、植物へ、動物へ、光へ、風へ。悟りの世界を見せてくれるこの美しい絵本、ぜひご覧いただければと思います。(K2)

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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(3月刊行)
▼近刊案内(4月刊行予定)
▼イベントレポート
▼営業部だより
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webマガジン「web春秋 はるとあき」

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○好評連載○
坐禅相応の身心を作るべく、自分なりのやり方で日常的に鍛錬していくことが現代人のわれわれには必要になっているのだ。

〇「人生というクソゲーを変えるための仏教」 ネルケ 無方
人生というクソゲーを遊んで楽しい本当のゲームに変える方法を探る。
【第9回】父を殺し、母を殺す仏教

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力発信していくプロジェクト” 「じんぶん堂(powered by 好書好日)では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。※毎週木曜日更新(月3回)
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新刊案内(3月刊行)
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比企 寿美子
四六判/192 頁/1,760円
虐待や介護が問題視されている現代、いのちの尊さを見つめ直す。

●ヴィラ=ロボス――ブラジルの大地に歌わせるために
木許 裕介
四六判/500 頁/4,180 円
ブラジルの大地が生んだ作曲家の生涯と作品。世界を旅した作曲家が創造した音楽と魂に迫る。

* 今月の営業部イチオシ本 *

前田 まゆみ
B5判変型/32頁/1,980円
贈り物に最適な珠玉のアートブック
もっとも有名なお経を、絵本作家がやさしいことばと美しい絵でつづり、般若心経の「空(くう)」の考え方をわかりやすく説く。英文付き。
* 注目の「ポリヴェーガル理論」最新刊&好評既刊 *


A5判/612頁/4,620円
トラウマを癒すセラピューティックアプローチ!
提唱者ポージェスをはじめヴァン・デア・コーク、オグデン、ラヴィーンら世界的権威と多彩な専門家が大集結。理論に基づく22の切り口からトラウマに向き合う。
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近刊案内(4月刊行予定)
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『一休宗純『狂雲集』再考』
芳澤 勝弘
A5判/672頁/12,100円
一休の代表作であり、五山文学の傑作でもある漢詩集『狂雲集』より300首ほど選出し現代語訳と語注を施す。従来の解釈を覆す独自の理解から新たな一休像を示す画期的大作。
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『佛心』[創業105周年記念復刊]
朝比奈 宗源
四六判/184頁/2,090円
名説法で知られた著者が、仏教の肝要たる「仏心」を禅の立場から、平易な言葉で懇切丁寧に説き明かした珠玉の名著の新版。仏教や禅の初心者には、まさに恰好の入門書。〈新装版〉
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『人はみな仏である ――白隠禅師坐禅和讃・一転語』[創業105周年記念復刊]
朝比奈 宗源
四六判/232頁/2,200円
白隠禅師の有名な「坐禅和讃」を素材に「仏心」に休らう人の生き方を語る法話集。禅機に溢れた老師の語録である「一転語」を付す。版を重ね続けたロングセラー。〈新装版〉
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『九十一歳のエチュード ――楽しかったモンテ・カルロの一夜』
二宮 真弓
四六判/232頁/1,980円
「ずっこけマユミン」の最新「俳句エッセイ」。昭和時代の懐かしい光景、ささやかな日常風景からコロナ、ウクライナ問題まで、好奇心全開、縦横無尽に語る老熟の眼差し。
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『掬われる声、語られる芸 ――小沢昭一と『ドキュメント 日本の放浪芸』』
鈴木 聖子
四六判/304頁/2,750円
萬歳・ごぜ唄・猿回しをはじめとした稀少な音楽芸能から節談説教、さらにストリップに至るまで、「放浪芸」を追いながら自身の芸と向き合い続けてきた小沢昭一の姿に迫る。
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[春秋社音楽学叢書]『音楽と心の科学史 ――音楽学と心理学が交差するとき』
西田 紘子 / 小寺 未知留
四六判/256頁/3,080円
音楽理論と音楽美学は心理学の知見をどのように参照してきたか。物理学や生理学、心理学が飛躍的に発展した19世紀後半以降の音楽学史を心理学との学際的な見地から探る。
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『鍵盤ハーモニカの本』
南川 朱生(ピアノニマス)
四六判/308頁/2,090円
鍵盤ハーモニカの製造の歴史や教育現場での受容、構造の秘密、〈誕生〉の瞬間など、様々なシーンを豊富な資料とともに巡る。楽器愛に満ちた、読んで、見て、楽しい一冊。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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☆ イベントレポート ☆

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『14歳のための時間論』 『14歳のための宇宙授業――相対論と量子論のはなし』 などでおなじみの 佐治晴夫 先生の米寿を記念して開催されたレクチュア&コンサート「夢見る宇宙と音楽と」。その模様を 『マンガで読む14歳のための現代物理学と般若心経』 のイラストを担当された 赤池キョウコ 先生が素敵なイラストと文章にてレポートしてくださいました。「web春秋 はるとあき」にて好評公開中です!

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□営業部だより□
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 学生の頃、誘われて大学近くに新しく出来たダイニングバーへ足を運んだところ、カウンター上部の壁にそなえつけられたモニターに、映画『カサブランカ』が映し出されていた。その時は別段気にも留めなかったが、次に別の友人と店へ入った際にも、『カサブランカ』をやっていて、ハンフリー・ボガートの「君の瞳に乾杯」という台詞が字幕で流れていた。その後も在学中に幾度か行ったその店では、常時『カサブランカ』しかやらなかった。あれは店主の好みだったのだろうか。店内の暗い明かりの中で、イングリッド・バーグマンの顔はひときわ美しく映えて見えたが、ほかの客はいつだってモニターの方など見ていなかったように記憶している。

 『カサブランカ』は1942年製作、アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞の3部門を受賞した名作ラブロマンスだが、現代の日本における映画好きの中で、この映画や同時代に作られた作品のファンはいったいどれくらいいるだろうか。実は私は新作映画よりも、こういった半世紀以上前の白黒映画の方がけっこう好きで、一度気に入った作品は何度も繰り返し観る。それは一回の視聴で内容を十全に把握できない私の理解力不足のためでもあるが、どこか本を読む時と似たような感覚で、再読三読して初めて気づかされる仕掛けや登場人物の感情・思考というものがあるように思えるのだ。それで、ほかの気になっている作品を差し置いて、何度も観たはずのワンシーンを、今日もまた食い入るように観てしまう・・・・・・。

  スタンリー・カヴェル 『涙の果て――知られざる女性のハリウッド・メロドラマ』 中川 雄一 訳)は、『ガス燈』(1944年)、『情熱の航路』(1942年)などの古典ハリウッド映画を論じ、現代における人間存在を探究する映画論だ。前掲の2作を含めた四つのクラシック映画が映し出した「新たな女性」と人間の創造を、丹念な論考からあぶり出していく。表紙の一滴こぼれ落ちた涙がにじんだようなデザインも魅力的だ。

 一本の映画について何かを語ろうとする際、もちろんその人は一度ならず何度でもその作品を鑑賞していると思われる。いわゆる「映画論」として複数の作品を同時に分析するとなればなおのこと、作品を観る時間だけでも膨大になるはずだ。幾多の鑑賞と考察を経て、一冊の本の形となった『涙の果て』を読み終えた時、映画というコンテンツが持つ可能性と深遠さに改めて瞠目すること請け合いである。(E)


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