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春秋社 メールマガジン【Vol.036】
   2022年 2月 1日配信
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 巻頭言!
 1月22日、ベトナム出身の禅僧ティク・ナット・ハン師の訃報に接した。弊社が師の著書の翻訳 『微笑みを生きる』を刊行したのは1995年で、師の初来日に合わせたものだった。私も一日だけだが、朝からリトリートに参加し、師のお顔をじかに拝見することができた。「微笑み」を強調する師であるが、そのときはむしろ少し暗い、鋭敏な人という印象を持った。折しもオウム真理教事件直後であり、プレス・カンファレンスでは、宗教の危険性についてかなり突っ込んだ質問が飛びだしたのを憶えている。師は、その時点ではオウム事件を知らなかったからだろうが、少し困惑したような表情を見せた。しかし誠実に答えてくださり、よき宗教か悪しき宗教かはその行動でわかる、といったことをおっしゃった。イエスの「悪い実を結ぶ良い木はなく、また、良い実を結ぶ悪い木はない。木は、それぞれ、その結ぶ実によって分かる」(ルカ6:43-44)を想い起こさせる言葉である。師がキリスト教にも造詣が深いことは、次に手がけた 『生けるブッダ、生けるキリスト』で存分に知ることになるが、同時にこの言葉は、師の焦点が「行動」にあることも如実に示していた。
 現在、ティク・ナット・ハン師は何より「マインドフルネスを世界にひろめた人」として知られているだろう。しかし最初に日本に紹介された師の著作が『火の海の中の蓮華――ベトナムは告発する』(読売新聞社)であったように、また師のモットーが「エンゲイジド・ブディズム(社会と関わり行動する仏教)」であるように、師は静的な瞑想の人であるとともに「行動」の人であった。
 師は1926年の生まれだ。フランスの植民地時代から日本軍の仏印進駐(1940-1941)を含む太平洋戦争を体験し、それが終わるとすぐフランスからの独立戦争(第一次インドシナ戦争)、さらに南北ベトナム分断とゴ・ディン・ディエム政権の仏教弾圧、そして凄惨なベトナム戦争とつづき、そのあげくが祖国からの帰国拒否である。
 つまり師の前半生はつねに戦争と圧政のなかにあった。ベトナム戦争時の反戦・平和活動は壮絶で、多くの友人・知人が死に、師自身も事務所に爆弾をしかけられ、間一髪で難を逃れたこともあったという。友を亡くし、その遺体をいだいたときの静かな慟哭は、 『微笑みを生きる』の訳者あとがきで訳されている「メッセージ」という詩からもありありと伝わってくる。
 師の仏教は決して安全圏で瞑想に耽り、言葉を弄ぶものではなかった。数多くの苦難に遭い、行動し、傷だらけになりながら確立されたものだった。その背後に深い悲しみを秘めた笑顔で、師が今日の仏教者に問いかけるのは、「あなたはいかに行動するのか」――これであろう。(K2)
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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(1月刊行)
▼近刊案内(2月刊行予定)
▼ネット決済はじめました!
▼編集後記
●新連載●
〇「アルス・ピヤニカ ――鍵盤ハーモニカの楽堂 南川朱生(ピアノニマス)
SNSやメディアでいま大注目のプロ鍵盤ハーモニカ奏者が、長年蓄積した研究の集大成を紹介。
【第1回】鍵盤ハーモニカの旅へ


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新刊案内(1月刊行)
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A5判/272頁/22,000円
関係の捉え方から知る新ニヤーヤ学派の特徴。

四六判/224頁/3,080円
密教の優位を説く空海初期の代表作を解説。

仏菩薩の名前からわかる 大乗仏典の成立  田中 公明
四六判/376頁/3,300円
菩薩の尊格から論じる大乗仏教の成立史。〔口絵1〕

四六判/210頁/1,870円
今、コロナ禍をこえて凜として生きるために。

四六判/248頁/2,420円
『法句経』をもとに禅師が語りかける名講話集。

四六判/240頁/2,420円
宗派を超えた道元思想のエッセンス。

A5判/328頁/4,620円
修験道の主要聖典、初の現代語訳。

四六判/240頁/2,860円
アート実践をとおして環境と向き合う。〔口絵8〕

A5判/152頁/2,420円
自然リズムでデザインする演奏法の極意。
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●ニーチェの道徳哲学と自然主義 ――『道徳の系譜学』を読み解く
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四六判/624頁/5,280円
ポストモダンのニーチェ解釈は曲解にすぎない!
詳細な読解から、真理を否定したり価値相対主義で力を求めたのではないニーチェの真実をあぶりだす英米のニーチェ研究最前線。

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近刊案内(2月刊行予定)
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『心を磨く ――まごころの風景
安田 暎胤
四六判/226頁/2,200円
どのように心を磨くか。「凡夫の心・仏法の心」を五十音から一語づつを選んで、滋味豊かに語る唯識的仏教エッセイ。ジワリと身心に沁みる「心の万華鏡」。
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『瞬間と刹那 ――二つのミュトロギー
木岡 伸夫
四六判/340頁/3,960円
西洋的瞬間と東洋的仏教的刹那に関するミュートス(神話)とロゴス(論理的思考)、「ミュトロギー」を比較し、現在支配的な瞬間を相対化して新たな時間的地平を目指す。
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『「絶対矛盾的自己同一」とは何か ――続・「西田哲学」演習
黒崎 宏
四六判/248頁/3,520円
世界哲学の基底をなす西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」を、井筒俊彦ら多彩な論考の渉猟と、プロティヌス、道元、アインシュタインなど様々な思想・科学の分析から解明。
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『世界を喰らう龍・中国の野望』
ピエール=アントワーヌ・ドネ 著   神田順子 監訳
四六判/368頁/2,750円
いまや世界最大の問題児・中国。ウイグル・チベットの人権問題や政治体制から環境破壊・拡張主義など、問題を総合的にとらえ、対策を考える老練のジャーナリストの意欲作。
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『フランクルの臨床哲学 ──ホモ・パティエンスの人間形成論
岡本 哲雄
A5判/528頁/4,950円
〈アウシュヴィッツ〉を生き延びたフランクルの哲学が歴史に応答したこととは何か──ホモ・パティエンスという人間理解から、《教育の倫理》を探る本格的研究書。
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『女に産土(うぶすな)はいらない』
三砂 ちづる
四六判/264頁/2,090円
女にとってふるさととは? 血縁・地縁を離れてなお、暮らしを整えてきた女たちの、たしかなしたたかな姿。祈りと献身に連なる女性性を、鮮やかにあたたかに語りなおす。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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□編集後記□
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 まもなく北京2022オリンピックが開幕します。2008年に開かれたばかりでは、と思いますが今回は“冬”季五輪。同一都市で夏冬の両季オリンピックが開催されるのは世界初のことです。通常であれば春節とも重なり大いに盛り上がるはずでしたが、新型コロナウイルス感染症の影響が暗い影を落としています。加えてアメリカをはじめとした各国が政府の代表団を派遣しない、いわゆる“外交ボイコット”も話題となりました。
 世界第2位の経済大国であり、軍事大国となった中華人民共和国。その影響力は年々その強さを増すばかりですが、ウイグルやチベットなどの人権問題、その政治体制や環境破壊など深刻な問題をいくつも抱えています。世界はどのように中国とつきあっていけばよいのか。近刊 『世界を喰らう龍・中国の野望』は、フランスのジャーナリストが山積する問題を総合的に捉え、対策を考える意欲作です。国際社会にとって中国がどのような存在であるか、いま知っておくべき“中国との向き合い方”を考察します。

 巻頭言にもありますとおり去る1月22日、禅僧であるティク・ナット・ハン師がベトナム中部フエの寺院にて逝去されました。95歳でした。生涯を通して執筆した瞑想やマインドフルネスに関する著作は100冊以上にのぼり、小社も多くの翻訳本を刊行しています。昨年新たに刊行した 『沈黙 ――雑音まみれの世界のなかの静寂のちからは、こころの雑音を消すことで自由と幸福に耳を傾けることができると説く、師の50年を超える仏教指導が凝縮された一冊です。「はじめに」において師はわれわれに語りかけます。「美しいものの呼び声に耳を澄まし、それに応えるためには、沈黙が必要です」と。コロナ禍のいまだからこそ、心を落ち着かせ、自分自身と深く向き合う時間の大切さが身にしみます。
 物理的なさまざまな雑音に惑わされ、精神的な雑音のなかで苦しむことが多い情報過多の現代。どうかみなさまの心が穏やかでありますように。新型コロナウイルス感染症の収束を願い、みなさまのご健康を心よりお祈り申し上げます。(A)


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□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(月末ごろ)配信

※次号(Vol.37)は2・3月合併号となります。配信は3月下旬を予定いたしております。

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