(プレジデントオンライン 1/6(水)より抜粋改編)
新型コロナウイルス感染症の重症化の目安となる血液中の酸素飽和度を測定できる「パルスオキシメーター」が注目を浴びている。麻酔科医の筒井冨美氏は「医療現場で患者の容態把握のための重要な医療機器」という。
酸素飽和度とパルスオキシメーター
「パルスオキシメーター」という医療機器をご存じだろうか。ネットニュースやネット通販、書籍では下記のように“別名”で呼ばれることがある。 ・サチュレーションモニター ・経皮的酸素飽和度計 ・血中酸素測定器 ・SpO2 (エスピーオーツー)測定器 用語が入り乱れているが、これらはすべてパルスオキシメーターのことだ。
新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)関連のニュースでは、「酸素飽和度90」といった表現がしばしば登場するが、この「酸素飽和度」の意味を正しく理解している人は少ないのではないか。 血液中には、酸素を体中に運搬するヘモグロビンという色素がある。酸素飽和度とは「ヘモグロビンの何%が酸素と結合しているか」を示す指標である。医学書などでは「SpO2 (エスピーオーツー:パルスオキシメーターで測定した場合の酸素飽和度)」と記されることも多い。
健康成人の正常値は96~100%だが、喫煙者・高齢者・肥満者などは約2~5%低下していることが多い。そして90%以下となると「低酸素血症(ハイポキシア)」と呼ばれて、酸素投与などの治療対象となることが多い。
酸素を結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)は鮮やかな紅色であり、酸素を結合しないヘモグロビン(還元ヘモグロビン)は暗赤色となる。低酸素血症となった患者が「顔色が悪い」のは、暗赤色の還元ヘモグロビンが増えるために唇や頬などがくすんだ色調になるからである。
このヘモグロビンの「酸素の有無で色調が変化する」性質を利用して、光を透過させることによって酸素飽和度をリアルタイムに測定できる機器がパルスオキシメーターである。 従来は、わざわざ動脈から採血しないと測定できなかった(この場合はSaO2 表記される)データが、簡便に得られるようになり、酸素飽和度脈拍は「血圧・体温・呼吸数に次ぐ第5の生体サイン」とも言われている。ちなみに、このパルスオキシメーターは1974年に日本の医療機器メーカーである日本光電(本社:東京都新宿区)によって発明された。
開発者である青柳卓雄氏はコロナ第1波渦中の2020年4月に亡くなり、ワシントンポスト紙などで世界に報じられた。
酸素飽和度がベースラインから急降下したら要注意
パルスオキシメーターを入手したら、まずは平常時に測定して、ベースラインの酸素飽和度を把握することが大切である。マニキュアのある指では正確な数値が出ないので、足指など何も塗っていない部分で測定しよう。また、寒冷地で指先が冷たい場合も脈が拾いにくいので、暖房やお湯などで指を温めた上で測定すると出やすい。
何らかの体調の変化を感じた場合、微熱であっても酸素飽和度をマメに測定し、「90%未満」あるいは「ベースラインよりも5%以上低下」がみられる場合には、「かかりつけ医師」「発熱外来」「保健所」などに電話して「受診すべき病院」などの指示を仰ぐことを強くお勧めしたい。
「ハッピーハイポキシア(幸せな低酸素血症)」とは?
健康な成人が急に酸素飽和度が90%以下になるような低酸素血症に陥ると、通常は強い呼吸困難感に苦しめられる。
ところがコロナ肺炎では、ウイルス感染によって酸素飽和度が70~80%のような重度の低酸素血症の状態になったにもかかわらず、患者が「息が苦しい」と訴えないことがある。そのため重症化の発見が遅れることが問題となっている。この現象を科学雑誌『サイエンス』が「ハッピーハイポキシア(happy hypoxia)」と呼んだことで世界中の医療関係者に知られることになった。日本でも「自宅療養していたコロナ軽症者に医療機関が電話で容体を確認しても特別な訴えがなかったので特に警戒していなかったところ、その後に急変して死亡」というケースが報道されている。その陰には、ハッピーハイポキシアがあった可能性が指摘されている。
1000円未満のパルスオキシメーターも登場
「パルスオキシメーターは医療機器であり、安くても数万~数十万円」というのが2019年までの常識だった。ところが、コロナ禍で医療機器の製造開発が急速に進み、2021年正月にネット通販を検索すると医療機器認証を受けた製品でも数千円、アジア製の廉価版ならば数百円の製品が販売されている。筆者としては、医療機器認証を受けた製品をお勧めしたい。
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