(週刊現代2020年3月7日号より抜粋改編)
うるさいと言われても、つい放置してしまういびき、実は、ある日突然、命を奪う落とし穴が潜んでいた。どんないびきが危険なのか、その特徴を5つの視点から解説。
本稿ではいびきについて、SASネットにも週刊現代から取材がありました。
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1.脳卒中につながるいびき
── 「ンガッ」という音で目が覚める人は要注意 ──
日本人は顎が小さいうえに、顔が平らで顎が引っ込んでいるので、もともと気道が狭いことが多い。そのため、日本人は肥満でなくとも、いびきをかきやすいと言われている。
なかでも危険なのが、「ンガッ」という音で目が覚めるタイプのいびきだ。寝ている間に何度も呼吸が止まっている可能性が高い。睡眠中、舌の根元がのどに落ちて、気道が狭くなるとガーガーいびきが鳴る。さらに舌が落ち込んで気道を完全にふさぐとブツッと息が止まり、呼吸を取り戻す瞬間にンガッと音が鳴る。
いびきをかく人の約7割は、寝ているあいだに何度も息が止まる「睡眠時無呼吸症候群」の可能性がある。恐ろしいのは、無呼吸は、本人にほとんど自覚がないうえに、命に関わるさまざまな大病の原因となることだ。この病気を放置している人は、健康な人に比べて、8年後の生存率が63%にまで低下すると報告されている。
いびきは、当の本人にとっては痛くもかゆくもないので、多くの人が「たいしたことない」と放置する。だが、実はそこには死が待ち構えている。
2.心不全につながるいびき
── 突然、静かになったと思ったら心停止 ──
呼吸が何度も止まるため心臓に負担がかかり、心不全をもたらすいびきは、まさにサイレント・キラーだ。この厄介な死の前兆に気付くためには、いくつかの重要なサインを見落とさないことが重要になってくる。
サイン① 夜、トイレのために何度も目覚める
心臓に低酸素の負荷がかかると、尿量を増やすことにより血液量を減らし、心臓にかかる負担を少なくしようと腎臓は活発に働き始めて尿を作り出すため、夜間頻尿になる。朝、起きたときにのどが渇いている人も、寝ているあいだに心臓に強い負担がかかっている可能性が高い。
サイン② 降圧剤を2種類以上飲んでも、血圧が下がらない
2剤以上の降圧剤を飲んで血圧をコントロールできない人の8割が、無呼吸だと言われている。睡眠中の呼吸停止によって血圧が高くなっているため、いくらくすりを飲んでも血圧が下がらないのだ。特に、深夜や早朝に血圧があがりやすい。
サイン③ 朝起きたときに頭痛がある
寝ているときに息が止まると、空気の出入りが悪くなる。朝起きたときに二酸化炭素が溜まり、血管が拡張するので、頭痛が起きる。こうしたサインを放置していれば、ある日突然、心不全をもたらすいびきに命を奪われてもおかしくない。
3.がんにつながるいびき
── ハーバード大の研究では発症リスクは2倍 ──
いびきががんの発生と関連しているのは明らかだが、そのメカニズムには「ある物質」が深く関わっていることがわかってきた。「メラトニン」だ。メラトニンが足りなくなると、日常のありとあらゆる場面で弊害が生じ、まともな生活が送れなくなってしまう。まず、なにをしようにもやる気が起きず、無気力になる。さらには落ち込みがちで注意力が散漫になり、イライラがおさまらない。もしあなたが今、このような症状に悩まされているのならば、眠りつくたびに、がんが忍び寄ってきていると考えるべきだ。そして、それは他でもない、慢性的ないびきが原因になっているのである。
いびきは体にとって、さらなる悪循環を生み出す。がんになってしまってからも、いびきをかくような寝方をしていれば、体内の免疫機構は一向に改善されない。折角抗がん剤や放射線などの治療を懸命に続けたとしても、その効果が現れなくなってしまう。いびきを軽視し放置してしまうと、想像以上のダメージが体に蓄積していくことになる。
心臓や血管はおろか、細胞の一つ一つにまで悪影響を及ぼしてしまういびきの恐ろしさ。がんにかかってからでは、もう遅い。
4.認知症やうつ病につながるいびき
── そのとき、脳は酸欠状態になっている ──
いびきが引き金となって起きる「脳の病」は、認知症やうつ病として現れる。
うつ病にかかる患者の多くは、初期の段階から睡眠障害や激しいいびきに悩まされている。
睡眠が浅くなることで体が休まず、脳内のストレスホルモンが大量に分泌されてしまう。そのせいでいくら寝ても気分が晴れず、しまいには寝ること自体に強いストレスを抱えるようになるからだ。さらに、いびきによってうつ病を発症し、その症状が原因でますます眠れなくなってしまう。そのせいで、うつ病が加速度的に進行するという、まさに悪循環に陥ってしまうことがある。
病院に入院するうつ病患者を対象に睡眠障害を併発している人の割合を調べた研究では、実に被験者の41.1%がうつ病といびきをはじめとした睡眠障害を同時に抱えていた。いびきとうつ病の関係で鍵になるのが、セロトニンという物質である。セロトニンは、やる気を高める脳内物質であるドパーミンと、不安を高めるノルアドレナリンをコントロールし、精神を安定化させる神経伝達物質のこと。人が幸せを感じるために必要不可欠なものである。
ところが、いびきによって良質な睡眠が取れずにいることで、セロトニンがちゃんと分泌されなくなってしまう。その結果として、朝起きた瞬間から疲れが抜けず、なにをやっても悲観的になってします。その先に待っているのが、深刻なうつ病である。
たかがいびき、されどいびき、放っておけば勝手に治まると思っている間にも、あなたの脳は確実に破壊されているのだ。
5.誤嚥性肺炎につながるいびき
── 口を開けて寝る人は気をつけて ──
あなたが、60歳過ぎて、口を開けてガーガーいびきをかいているなら、近い将来、誤嚥性肺炎で苦しむことになるかもしれない。そして、もう一つ、本人でも自覚できる、重要なシグナルがある。「胃の不調」だ。いびきをかくことが多く、胸やけに悩まされている人は、誤嚥を引き起こすリスクが高い。
いびきで呼吸が止まると、身体は酸素を取り込むため必死に吸い込もうとする。すると、胃酸が胃から食道に吸い上げられて、逆流性食道炎が起こるのだ。高齢になればなるほど、胃に入った内容物が食道内を逆流して誤って気管に入り、誤嚥性肺炎を起こす可能性が増すから恐ろしい。いつもいびきをかいている人が誤嚥性肺炎を発症し、高熱が下がらず1週間以内に無くなるというケースは珍しくない。
睡眠の質を改善しないと、肺炎に苦しむリスクは飛躍的に高まる。いびきは死の前兆。そのことを頭に叩き込まなければ、命がいくつあっても足りなくなる。
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