コレージュクリニック ザ・ペニンシュラ東京の都筑俊寛院長による、Q&A形式の分かりやすい解説です。
Q.なぜ、いびきが起こるのですか?
A.いびきは、睡眠中にのど(上気道)が狭くなっていて、そこを空気が通る時に発生する振動音です。呼吸するとき、空気は鼻から上気道を通って気管へ流れていきますが、さまざまな要因で上気道が狭くなった時に空気が入っていくと、空気の乱れが生じます。その結果として、軟口蓋(なんこうがい/口腔の上側の奥にある柔らかい部分)や口蓋垂(こうがいすい/のどちんこ)、咽頭が振動していびき音が出てしまいます。
Q.いびきをかくことが、健康上の問題になるのですか?
A.習慣的にいびきをかくことは病気であり、健康上のリスクになります。たとえば、いびきに伴う異常呼吸が原因で酸素不足となり、その結果、自律神経のバランスが崩れて高血圧の発症につながることもあります。同様に、糖尿病、肥満、心不全の原因になることもあります。
Q.いびきにも、いろいろな種類があると聞きました。すべて注意が必要なのでしょうか?
A.ひと口に「いびき」と言っても、実は3種類あります。1つが「単純性いびき」。これは鼻づまりや疲労、飲酒、風邪などが原因で起こる一時的ないびきです。2つ目が「上気道抵抗症候群」。「習慣性いびき」とも呼ばれます。上気道が狭くなり、強い力で呼吸をする必要があるため、睡眠が妨げられます。無呼吸や低呼吸はありませんが、習慣的ないびきがみられます。3つ目が「睡眠時無呼吸を伴ういびき」。常時、他人から指摘されるくらい大きないびきをかいている状態です。
Q.いびきには3種類あるとのことですが、それぞれ原因が違うのですか?
A.いびきの種類によって、原因は異なります。まず、単純性いびきでは、呼吸に合わせて大きな音がする程度で、呼吸のリズムが大きく崩れたり、無呼吸状態が見られたりすることは、ほぼありません。鼻づまりや疲労、飲酒が原因で、それらの影響がなくなれば自然といびきがなくなるので、それほど心配ありません。残り2つの「上気道抵抗症候群」と「睡眠時無呼吸を伴ういびき」。これらについては、医療機関による診断と治療が必要です。
Q.2つ目の「上気道抵抗症候群」について、もう少し詳しく教えてください。
A.これは、この後に説明する、「睡眠時無呼吸症候群」の前兆で、睡眠が妨げられ、しっかりと眠ることが難しくなるため、起きてもすっきりしません。日中に眠気を感じることが多いので、職場や車の運転、家事などにも悪い影響を及ぼす可能性があります。早めに医療機関で相談するのが良いでしょう。
Q.続いて3つ目の「睡眠時無呼吸を伴ういびき」とはどのようなものですか?
A.周期的にかいていたいびきが、呼吸が止まるため突然静かになり、「ゴゴッ」という音と共に再開するいびきです。寝ている最中に、10秒以上を越える無呼吸といびきを何度も繰り返していたら要注意ですね。
Q.睡眠時無呼吸症候群では、どのような症状が見られるのですか?
A.睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に低呼吸または無呼吸を生じるので、体が低酸素状態になります。Sleep Apnea Syndrome(SAS:サス)とも呼ばれます。血中の酸素が不足するので、睡眠時に繰り返し目が覚めたり、朝に疲労感が残っていたり、十分な休息を得られなくなってしまいます。自分ではなかなか気づきにくいので、当院へ相談にいらっしゃる人も、家族やパートナーに指摘されて知った、というケースが多いです。
Q.睡眠時無呼吸症候群の原因はなんですか?
A.最も多いのは、「閉塞型」です。のどが一時的に潰れてしまうことで起きている無呼吸状態です。たとえば、太っている人が仰向けの姿勢で寝ると、のどが狭くなって呼吸がしづらくなることがあります。このときに一時的にのどが塞がってしまえば、無呼吸を引き起こします。
Q.睡眠時無呼吸症候群を放置すると、どうなるのでしょうか?
A.日中の強い眠気が、居眠り運転や労働災害につながる可能性があります。さらに最近では、睡眠時無呼吸症候群は命のリスクになることもわかっていて、動脈硬化や不整脈の原因になりかねません。また、肥満や高血圧、糖尿病など生活習慣病のリスクが高まります。そのほか、朝、目覚めてもスッキリしないので、不安を感じて落ち込みやすく、うつ症状に至る、ということもあります。
Q.睡眠時無呼吸症候群は、どのように治療するのですか?
A.肥満の人が睡眠時無呼吸症候群を患っている場合は、まず、生活習慣の改善を行います。特に、のどのまわりに脂肪が堆積している場合、呼吸がしづらくなるため、減量することを勧めます。そのほか、医療機関で行う治療の第一選択肢は、「CPAP療法」です。これは鼻マスクを装着し、マスクにつながった機械から空気を送り込むことでのどを広げ呼吸を改善させるものです。
Q.CPAP(シーパップ)療法で症状が改善されるのですか?
A.空気を送り込むので、症状は改善します。ただし、装着感が煩わしい、モーター音がうるさい、出張に持参できないなどの理由で、CPAP療法を行えない人もいます。その場合は、顎位置を専用マウスピースで整えることによって呼吸の改善を図る「マウスピース治療」や、レーザーで口蓋垂(こうがいすい/のどちんこ)を除去する外科手術をお勧めします。
Q.CPAP療法やマウスピースは、機器を装着している間だけ改善されるということですね。結局、根治ではないのですか?
A.睡眠時無呼吸症候群の根治治療は、外科手術のみです。しかしながら、治療の第一選択はCPAP療法となっている事も事実です。口蓋垂の除去手術を行うと、個人差はありますが多くの方で症状の改善がみられます。ただ、外科手術をしたくないという方もいらっしゃるので、その方の状況やライフスタイルに合わせ、治療方法をご提案しています。
(注)現在では、CPAP脱落者に横向き寝が有効との報告もある。
Q.最後に、読者へのメッセージがあれば。
A.冒頭に申し上げました通り、多くの場合、いびきは治療が必要な病気です。ひとりで悩まず、気軽に医療機関へ相談してください。最近では、さまざまな機関が「いびきが治る」とうたっていますが、治療後にトラブルが発生するケースも目立っています。のどを専門とするのは、耳鼻咽喉科だけです。医療保険も使用できるので、信頼できる耳鼻咽喉科を受診しましょう。
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