脳は、安静時で全身の20%にもなる多量のエネルギーを消費していて、その過程で1日に7gものたんぱく質を使っては入れ替えている。このときできるたんぱく質老廃物の排出が、主に睡眠中に行われている可能性があるという。
長年、脳には老廃物回収に使われるリンパ系システムが存在しないといわれてきたが、どうやら寝ている間に脳細胞が収縮し、細胞間を埋める脳脊髄液に流れが生じることで老廃物が排出されるという。
疫学調査などで、睡眠不足や不眠、睡眠の質の低下などがアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めることが報告されているが、その理由が、夜間の脳のお掃除にあるかもしれない。
睡眠不足や、睡眠の質の低下が脳の萎縮を早めるという報告もある。若さを保つには、いかに量的にも質的にも“良い眠り”をとるかがカギといえそうだ。
2.睡眠時間が少ないと感染症リスクが高まる
「睡眠不足だとカゼを引きやすい」という通説を、実際に人で試した研究がある。米・ピッツバーグ大学などが行った試験で、健康な人をカゼの原因ウイルスであるライノウイルスに感染させ、カゼ発症と睡眠時間の関係を調べたというものだ。同様の研究はいくつか行われているが、どれも睡眠時間が短いほどカゼ発症率が高いという結果(データ:Sleep;38, 9,1353-1359, 2015) が出ている。また、睡眠の「質」もカゼの引きやすさに関係があるという報告もある。
睡眠不足や睡眠の質の低下は、侵入した病原体を真っ先に攻撃するナチュラルキラー(NK)細胞や、抗体産生に必要な情報を集めるT細胞といった免疫細胞の働きを低下させる。また、ワクチンの効きを悪くするという報告もある。
感染症対策には、十分な睡眠が不可欠といえそうだ。
3.腸内細菌が睡眠の質にも影響する!?
睡眠環境を整え、良い眠りを得たいと願っても、自分だけの努力ではどうにもならないかもしれない。米・ミズーリ大学の研究で、腸内細菌の多様性や種類によって、睡眠状態が変わる可能性が示唆された。
研究では、まず、睡眠時無呼吸症候群を模して低酸素状態と通常の酸素状態を交互に繰り返してマウスを育てると、腸内細菌叢の多様性が通常マウスに比べて低く、酸素を嫌う嫌気性菌が多くなることを確認している。そして、このマウスの糞便を通常の健康マウスに飲ませると、睡眠時無呼吸症候群のように、睡眠時間が増え、活動時間帯に眠る回数が増えたのだという。
この変化について、研究チームは、「糞便移植により腸内細菌のバランスが変わったことが、睡眠状態に変化を与えた可能性が高い」と分析している。
4.睡眠不足で怒り増幅欲求不満も高まる
怒りやイライラをコントロールしたいなら、まず十分睡眠がとれているか見直してみよう。
大学生に、睡眠状態やその日の感情などを1カ月間記録してもらい、データを解析したところ、怒りを感じた日の前夜は、普段より睡眠時間が短いことが多かったという。また、いつもより2時間睡眠時間を減らした群と、通常通り睡眠をとる群を、それぞれストレスフルな大音量の環境に置いた場合、睡眠を減らした群で明らかに怒りが強く、不満も大きくなったという。
■よい睡眠を作るための〈入眠角度〉
“背上げ”が息苦しさを解消 いびきや無呼吸対策にも
息苦しくて寝つけないときには、枕などをいくつか重ねて上半身を高くする“背上げ”を試してみるのも一つの方法だ。「横隔膜の動きがよくなり、呼吸がしやすくなる」と神戸大学大学院保健学研究科の石川朗教授はいう。
呼吸は主に横隔膜の動きによって行われる。横隔膜が下がると、胸腔内の圧が下がることで肺が広がり、空気が引き込まれ、横隔膜が上がると胸腔内の圧が高まり、肺から空気が押し出される。これが呼吸の仕組みだ。
「ところが、横になると、重力に伴い腹腔内の臓器が横隔膜を圧迫し、胸腔のほうまで広がりってしまう」と石川教授はいう。背上げにはこの臓器による横隔膜への圧迫を解消する働きがあるようだ。 |