眠っていても、実はよく眠れていない?
「疲労」とは、呼吸や心拍、血液循環、体温などをコントロールしている自律神経の中枢に負荷がかかることで、活性酸素が大量に発生し、脳の神経細胞がサビついて自律神経機能が低下している状態。そのサビがこびりついてとれなくなった状態が「老化」である。
疲労が蓄積して老化につながってしまうと、元に戻すことはできない。そうなる前に、脳の神経細胞のサビを落とし、疲労を回復させることが重要になってくる。
疲労医学の第一人者である東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんは、「サビついた細胞を修復し、疲労を回復させるには『質の良い睡眠』をとることが不可欠です」と話す。「そもそも睡眠の目的は、体の疲れをとることではなく、疲労の根本的な原因となる『脳の疲れ』を回復させることにあります」(梶本さん)
つまり「質の良い睡眠」とは、「脳の疲れをとる睡眠」ということになる。自分ではよく眠れているつもりでも、翌朝も疲れが残っている、体がだるくてすっきりしないと感じるようなら、質の良い睡眠がとれているとは言えない。眠っているはずなのに、自律神経の疲れが回復していない可能性が高いのだ。そのような質の悪い睡眠や、睡眠不足が借金のように積み重なって「睡眠負債」の状態になれば、疲労が悪化して、心身にさまざまな不調が生じてくる。
「睡眠・疲労」のセルフチェック
□電車やバスに乗ると、次の駅や停留所に着くまでに眠っていることがある
□夜、ベッドや布団に横になると、5分以内に寝つくことが多い
□起床から4時間くらいすると、眠気やだるさを感じる
これらの項目は実質的な睡眠不足で疲労がたまってきているときに見られる兆候で、当てはまる数が多いほど睡眠の質が悪化している可能性が高い。
「良すぎる寝つき」は脳の疲れの表れ
1つ目の「電車の中など、移動中のわずかな時間でも眠れる」と2つ目の「ベッドに入ったらすぐに眠れる」は、寝つきの良さを示す項目なので、一見すると「何が問題なのだろう?」と思う人もいるかもしれないが、これは「疲れ自慢」をしているようなものだ。すぐに眠ってしまういわゆる「寝落ち」は、脳が極度に疲れている表れと言える。
「『寝落ち』は主に、睡眠不足や睡眠の質が悪いことが原因で起こると考えられます。脳が強制的に意識をシャットダウンして、すぐに休息をとらなければいけないほど、自律神経の中枢が疲れているのです」(梶本さん)
次に、「起床から4時間くらいすると、眠気やだるさを感じる」という項目。これも、疲れがとれていないサインだ。人間の体には体内時計に基づく「生体リズム」が備わっている。睡眠と活動(覚醒)の周期もその1つ。生体リズムは起床を起点に変化していく。
「本来であれば、起床の4時間後は1日の中で最も脳が活動的になるので、創造的な仕事をするのに適していると言われています。その時間に眠気やだるさを感じるということは、それだけ疲れている証しだと考えられます」(梶本さん)
日中は活性酸素が多く発生するので、細胞修復が追いつかない
疲労の原因は脳の疲れ、すなわち、自律神経の中枢に過度の負荷がかかることにある。長時間のデスクワークや肉体労働、運動、暑さなどで自律神経が酷使されると、大量の活性酸素が発生し、脳の神経細胞が酸化ストレスにさらされてサビつき、自律神経機能の低下を招く。
活性酸素が脳の神経細胞をサビつかせるとき、細胞からは老廃物が排出される。すると、体内に「疲労因子FF(ファティーグ・ファクター)」と呼ばれる物質が増加する。疲労因子FFは、老廃物に誘発されて出現するいくつかのたんぱく質の総称だ。
体内で疲労因子FFが増加すると、サビついた細胞を修復するために「疲労回復物質FR(ファティーグ・リカバリー・ファクター)」が発生する。ただ、日中に活動している間は活性酸素が多く発生するので、疲労回復物質FRによる細胞修復が追いつかない。そのため、疲れがたまっていくわけだ。
「深い眠り」なくしては疲労は回復できない
一方、自律神経は24時間休みなく働くものの、睡眠中はその活動が抑えられ、活性酸素の発生量も少なくなる。その時間帯であれば、細胞の損傷よりも修復が進み、疲労回復が促される。「つまり、疲労を回復させるには、細胞を修復する睡眠が必要不可欠なのです。それも、より眠りが深く、脳が休息できるノンレム睡眠が大事になります」(梶本さん)
睡眠には、浅い眠りのレム睡眠と、深い眠りのノンレム睡眠とがあり、この2つの睡眠が周期的に繰り返される。レム睡眠は体を休める睡眠で、脳は記憶の整理などのために比較的活発に動いているため脳の細胞修復は促されない。これに対し、ノンレム睡眠は脳も休息状態になるので脳の細胞修復が進むことになる。
睡眠時間が不足したり、なんらかの影響によって睡眠の質が悪化したりすると、ノンレム睡眠が十分得られず、脳の神経細胞の修復が間に合わずに疲労が蓄積してしまうというのだ。脳は、深い眠りであるノンレム睡眠の状態にならないと休息できない。
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