渋沢栄一が2024年度から新1万円札の図柄になる。NHK大河ドラマでも話題だ。「日本資本主義の父」と称され、銀行や鉄道など500社程度の設立に関わった。永田町でも経営哲学を示した著書「論語と算盤(そろばん)」の愛読者は多い。「渋沢通」に魅力を聞いた。
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■「効率・利益重視から転換を」 自民・岸田文雄氏
渋沢栄一に注目が集まる背景には新自由主義に皆が疲れている点があるのだろう。幅広いステークホルダー(利害関係者)や社会に貢献する人間重視の資本主義でなければ、持続可能性が維持できない。世の中にそんな考えがある。
何のために成長するのか、成長の果実をどう分配するかが重要だ。20年の自民党総裁選で目指す国家像を問われ「論語と算盤」を挙げた。
効率や利益だけの追求では一部の幸せにとどまる。幅広い幸せにつなげる経済にすべきではないか。私が掲げる「新しい資本主義」と重なる。
渋沢は経済の仕組みをつくって日本を変えた。ドラマで代官に多額の御用金を課され、悔しい思いをした場面があった。どんな身分も平等だという思想で社会も変えた。現代社会も多様性や個性が尊重されるように進むべきだ。SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)も絡む。
渋沢は苛烈で激動の時代を生き抜く柔軟性もあった。尊皇攘夷の志士で終わっていたら、フランス行きも、合本主義と出会って新しい経済に目覚めることもなかった。
渋沢は三菱財閥をつくった岩崎弥太郎からの「二人で手を組もう」との打診を断ったとされている。いろんな人材を登用し、みんなで社会や経済をつくる姿勢だった。だからこそおよそ500社も立ち上げるに至ったのだろう。
■「格差是正し新しい成長」 国民民主・古川元久氏
格差の拡大などで資本主義が問われ、渋沢栄一に関心が集まる。単に成長や利益を目指すのではなく、公益につながる経済が持続可能な社会への道だという問題意識だ。
渋沢を意識した契機は08年の世界経済フォーラム(ダボス会議)だ。ビル・ゲイツ氏が「創造的資本主義」と説いた。製品の売り上げの一部を格差是正に回す仕組みだ。
資本主義が生む格差を資本主義内で解消する構想といえる。道徳と利潤の調和を唱える「論語と算盤」と同じだと感じた。企業も国もただ成長すれば良いのではない。成長は人々が幸せになる手段だ。
渋沢は「合本主義」と言った。みんなが資本を持ち寄れば大事業ができる協同組合のような発想だ。資本家と労働者に分断はない。
現在は超金融緩和で流動性が過剰な一方、経済は低体温・低血圧。必要な所にお金が流れない。必要な人や事業にお金が流れることが重要だ。
渋沢にはいまの経済人を叱咤(しった)してほしい。企業は内部留保をため込まず、新型コロナウイルス禍で人々の生活を支えるエッセンシャルワーカーらの賃金を上げ、お金を流してほしい。
資本主義を否定することはできないが野放図にしてもいけない。政治が担う部分は大きい。格差を是正しながら持続可能な社会にする「新しい成長」を目指したい。渋沢がしたこと、唱えたことを学んで指針とすべきだ。
■「労使協調目指した」 見城悌治・千葉大教授
渋沢栄一は民間の力で経済力を強化して社会全体を底上げする役目を果たそうとした。政治とは距離を置こうとしたが、関わらざるを得ない場面もあった。
日露戦争の開戦で渋沢は軍事費による財政圧迫を懸念した。最終的に開戦を容認したものの戦後は「無制限なる軍備の拡張は必ず生産事業の荒廃を意味する」と平和運動を支持した。軍部の冒険主義をいさめるリベラルな面もあった。
自由放任の資本主義ではなく修正資本主義を志向した。第1次世界大戦後に活発になった労働運動との労使協調を目指した。
関東大震災では被災者への炊き出しや臨時の病院建設に迅速に取り組んだ。新型コロナウイルスに対応できる病院数が少ないことが問題になっている。渋沢ならば、資金を集め臨時病院を早々につくったかもしれない。 |