(日経Gooday 2021/5/13より抜粋改編)
新型コロナウイルスで環境が一変する中、眼科医に駆け込む患者も増えているようだ。
中でも問題なのが、目の不調を感じない「隠れドライアイ」だ。いつの間にか「睡眠障害」「うつ症状の悪化」などにつながっている危険もあるという。
慶應義塾大学医学部特任准教授で、おおたけ眼科つきみ野医院(神奈川県大和市)の綾木雅彦院長にコロナ禍で急増する新たな症状の正体について聞いた。
ドライアイ、睡眠障害、気分障害のトライアングル?
「涙の減少」で目の不調以外に引き起こされるものがあるのだろうか?
綾木医師--「目の障害が自律神経に悪影響を及ぼすことも少なくありません。『ドライアイ』『睡眠障害』『うつなどの気分障害』には相関関係があると考えられます。眼科医の世界では『ドライアイ患者にはうつ傾向がある』という先行研究があります。実際、6年前に1000人の眼病患者に対して実施した私の研究では、緑内障・白内障・結膜炎・網膜疾患などの代表的な眼疾患と比較して、ドライアイ患者には睡眠障害やうつ・不安などの気分障害が多く見られることが分かっています。
ドライアイが重症だと睡眠障害も重い傾向があります。つまり、患者本人が自分のドライアイを自覚していない『隠れドライアイ』では、いつの間にか睡眠障害やうつ症状の悪化を招いている危険があるのです」
――「睡眠障害」と「うつなどの気分障害」が密接な関係にあることは以前より知られていたが、「ドライアイ」と「睡眠障害」「うつなどの気分障害」にも関わりがあることに気づいている人は、そう多くはないだろう。
綾木医師――「そうなんです。睡眠や精神面が『目と関わりがある』と気づく人はなかなかいないのが現状です。
メカニズムに関してはまだ研究途上ではありますが、このトライアングルには相関関係があるように思われます。逆に言うと、どれかの治療で他も改善する可能性が高いということです。
実際、ドライアイの治療で睡眠の質も改善された例は少なくありません。私の研究でも、初めてドライアイだと診断された患者のうち、3カ月以上の点眼治療で35%の患者の睡眠が改善し、50%の患者の気分障害が改善するというデータが出ています」
――白内障の手術をすることで目に入る光が増えて体内リズムが整い、睡眠の質が向上することは知られている。しかし、ドライアイを改善することでも、睡眠や精神面での改善につながるとは驚きだ。
コロナ以降、目の乾きが進んだのはなぜ?
特にこのコロナ禍では、目の不調を訴える人も少なくないようだ。
綾木医師――「確実にドライアイの患者さんが急増していますね。私はこの5年間6000人の患者さんの目の乾き具合をデータ化していますが、コロナ禍の前後では『涙の量』が激変。コロナ禍以降、涙が平均13%減少し、目の保湿機能は平均23%減少していることが分かっています。涙と保湿機能の両方が正常で初めて目は潤いますので、『目の乾き具合の悪化』確定ですね」
――原因はマスクだろうか?
綾木医師――「マスクのスキマから漏れる息が目を乾かしてしまうドライアイもあるでしょう。在宅勤務でのパソコン作業時間増加などによるまばたきの減少や目の疲れも原因のひとつ。さらに、環境の変化によるストレスで副交感神経の働きが低下し涙が減少するなど、コロナ禍で目が乾きやすくなる条件が増えているのは確かですね」
――「目が乾きやすくなっている」ということは、「目が傷つきやすい」「きれいにすることができない」ということでもある。そのため、目が「ゴロゴロする」「かすみがち」「痛い」という典型的なドライアイ症状を招くことになる。自分でできる予防法はないのだろうか?
とても簡単! ドライアイ予防法
綾木医師――「効果的な方法が主に3つあります」
ドライアイ予防法
- 「意識をして『まばたき』をする」=ワイパーのように目の表面のゴミを取り除き、涙で均一に目を潤わせる
- つらくなったら「目を温める」=涙の蒸発を抑える脂分の分泌を改善し、目の潤いをキープする
- 「20-20-20 ルール」=20分間目を使ったら20フィート(約6メートル)先を見て20秒目を休める
「この『20-20-20 ルール』は、もともとアメリカの学会で提唱されてきた眼科医の世界では有名な疲れ目防止指導法です」
――意識をすれば、この3つはすぐにでもできそうだ。
綾木医師――「ドライアイに関係するのは睡眠や気分障害にとどまりません。『肥満や糖尿病などの生活習慣病』もドライアイを悪化させる一因。運動をする人・しない人でもドライアイの発症率が違います」
――体はつながっている、ということのようだ。
綾木医師――「『ドライアイ』と診断されたら、生活習慣を見直すサイン。逆に、体調に異変を感じたら、『隠れドライアイ』を疑って目の検査も受けてみてください。『目は健康のバロメーター』です」 |