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春秋社 メールマガジン【Vol.063】
   2024年 6月 7日配信
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巻頭言!

旧約聖書の民数記に、モーセ率いるイスラエルの民がミデアン人から受けた仕打ちに復讐する記述があります。イスラエルの民はミデアン人の男を皆殺し、女と子どもを捕虜にし、家畜や財産、富のすべてを奪い取り、ミデアン人の町や村落に火をつけて、ことごとく焼き払います(民数記31:7-10)。『北斗の拳』のモヒカンのごとき所行です。モーセは激怒して言います。

「女たちを皆、生かしておいたのか。 ……直ちに、子供たちのうち、男の子は皆、殺せ。男と寝て男を知っている女も皆、殺せ。 女のうち、まだ男と寝ず、男を知らない娘は、あなたたちのために生かしておくがよい」(同31:14-18。新共同訳)

ドン引きです。モーセが激怒したのは、イスラエルの民が女と子どもを生かしておいたから(!)でした。怒ったモーセは「女も子どももみな殺せ」と命じ、さらに、まだ男を知らない娘は……と、コミケの薄い本ができそうなセリフを発するのです。

しかし、ここ数か月のイスラエルとパレスチナの紛争を見ていると、聖書の逸話をそのまま再現しているようではないですか。イスラエルはハマスの奇襲に報復して、ガザ地区の市街地も学校もお構いなしに空爆、地上軍も侵攻し、徹底的な破壊と殺戮で、パレスチナ側の死者は3万5000人を超え、しかもその70%は女性と子どもという惨状。

いや、先に手を出したハマスもひどかった。出くわした人を手あたりしだいに殺し、大勢を人質として拉致し、幼い子どもの首を切り落とし、音楽フェスに来ていただけの女性に乱暴し、殺し、死体に唾を吐きかけて辱めるといった蛮行の数々。しかも成果をアピールするためか、その動画を誇らしげにネットにアップして世界に公開し、おまけに、いまだに人質全員を解放してはいません。

これが中東の現実です。

中東やイスラム世界には、私には、そしておそらく多くの日本人にとっても、なかなか理解できないことがたくさんあります。たとえば、イランでは、ヒジャブ(女性が頭や体を蔽うための衣服)をきちんと着ていないというので、16歳の少女が道徳警察に殴られて殺され、子どもの権利のために活動していたパキスタンのマララ・ユスフザイさんは、14歳のとき過激派に襲撃され、頭を撃たれて、生死の境をさまよいました。マララさん襲撃を非難された過激派はこう答えたといいます。「女が教育を受けることは死に値する!」意味わかりますか? 私には全然わかりません!

パレスチナ然り、アフガニスタン然り、ヨーロッパのイスラム系テロリスト然り、世界各地で起きているこうした事態への疑問を少しでも晴らすには、歴史や民族、伝統といったものを注意深く検討する必要がありますし、何よりも一神教という、八百万の神々のおわします日本とはまったく異なる信仰を理解しなくてはなりません。そのために最適な本が、今月刊行される 小滝透先生の『イスラム世界に平和は来るか?――抗争するアラブとユダヤ、そしてイラン』なのです。

一神教はユダヤ教、キリスト教、イスラム教と展開してきましたが、とりわけユダヤ教とイスラム教には律法やシャリーアという神の命令する法があります。神の呼びかけを受けたアブラハムが一子イサクを殺して犠牲に捧げようとしたように、神の命令は絶対です。しかし近代国家には近代国家の法がある。神の法と国家の法が矛盾したらどうするのか。唯一絶対にして完全なる神の前では、基本的人権なんてヨーロッパのローカル・ルールにすぎず、神の法が優先するのではないか?

あるいは、イスラムといってもさまざまな民族がいますし、ひとつの民族がひとつの国家というわけでもありません。たとえばアラブ民族は、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、そのほか、さまざまな国家を構成しています。すると人々は、神と、民族と、国家の、どれにコミットすればいいのでしょうか?

イスラム世界の不安定さを生むこうした重層性にも目くばりしつつ、一神教全体を踏まえたイスラムの信仰と、アラブの民族性や歴史、そして地域大国たるイランの戦略について明快に解説し、平和へのかぼそい道筋を探る、それが『イスラム世界に平和は来るか?』なのです。その鋭利な筆致は読むだけでもエキサイティングですし、現代の世界情勢を理解するためにも、ぜひご一読いただきたい一冊。ご期待いただければ幸いです。(K2) 

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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(5月刊行)
▼近刊案内(6月刊行予定)
▼重版情報
▼営業部だより
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webマガジン「web春秋 はるとあき」

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●好評連載●
「文字の渚」   岩切 正一郎
文学、詩歌、戯曲、映画。古今東西の表現芸術のなかから、言葉の「変形」を読み解き、芸術の持つ力を再考する。
【第10回】古典に目覚めた頃

近代哲学を確立したカント『純粋理性批判』を徹底的に読解し、批判することで、近代哲学を解体し、独在論哲学を賞揚する試み。

○「人生というクソゲーを変えるための仏教」 ネルケ 無方
人生というクソゲーを遊んで楽しい本当のゲームに変える方法を探る。
【第19回】「なんだ、おまえか!?」――順タウマゼインと逆タウマゼイン

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト”  「じんぶん堂(powered by 好書好日)では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。 ※毎週木曜日更新(月3回)
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『親鸞と救済』
本多 弘之
四六判/260頁/3,300円
阿弥陀如来の本願に気づくための講義録。

剣による動の思想、心技体統一のメソッド。

松岡正剛の日本論、近江を舞台に仏教を穿つ。

成功への道を切り開くのは才能だけではない。

史料を駆使し社会史の視座から史実に迫る。


*今月の営業部イチオシ本*

朱 和之 著 / 中村 加代子 訳
四六判/392頁/2,860円

日本統治時代の台湾に生まれた写真家・トウ南光(トウは登におおざと)をモデルにした歴史小説。彼のライカは、モダン都市・東京、そして戦争から戦後で大きく変わりゆく台湾の近代を写し出す。

♪「web春秋 はるとあき」の「Close-up! この一冊」にて、特別に「訳者あとがき」の全文を公開するとともに、トウ南光による写真をご紹介!♪
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★  近刊案内(6月刊行予定) 
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『反密教学〈新装版〉』
津田 真一 著
A5判/400頁/4,400円 
〈利他行の宗教〉と〈瑜伽の宗教〉という二分法を用いて、〈華厳〉と〈釈尊の宗教〉、〈大乗〉と〈密教〉、を両立不可能なものとして分けるなど、独創的な対談と論考八篇。
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『イスラム世界に平和は来るか?――抗争するアラブとユダヤ、そしてイラン』
小滝 透 著
四六判/258頁/2,200円 
紅海を封鎖するフーシ派やイスラエルと死闘を繰り広げるハマスは何者か? 現代の紛争やテロにひそむ一神教の思考を解説し、その民族的背景も説いて、平和への道を探る。
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『[アジア文芸ライブラリー] わたしたちが起こした嵐』
ヴァネッサ・チャン 著 / 品川 亮
四六判/440頁/2,970円 
1945年、日本占領下のマラヤでは少年たちが次々と姿を消し始める……。日本軍のスパイに協力した主婦セシリーと、その家族に起こった数々の悲劇を圧倒的な筆力で描く。
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『[春秋社音楽学叢書] 国歌――勝者の音楽史』
上尾 信也
四六判/328頁/3,080円 
世界の100曲以上の国歌を網羅的に分析し、国歌の制定の歴史をナショナリズムやポスト・モダニズム、コロニアル・ヒストリーといった観点から紐解く。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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重版情報 ☆
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[現代哲学への招待]主観的、間主観的、客観的
ドナルド・デイヴィドソン 著 / 清塚 邦彦 他訳
四六判/400頁/4,840円
現代最高の哲学者デイヴィドソンが新しい知識論の構築を試みたスリリングな論文14編を収録。詳細な解説「外部主義と反還元主義」も付す。【4刷】

四六判/266頁/1,870円
20世紀最大の作家は、常に死を考えつつもその人生を全うした。カフカの日記と手紙をてがかりに、弱くあることの意味を再考する。【3刷】

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□営業部だより□
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 2024年は現在のチェコ出身の小説家 フランツ・カフカ (1883-1924)の没後100年ということで、 チェコ、ドイツ、オーストリア、ポーランドの在日文化機関が「Kafka Projekt 23→24」と題して、カフカの作品やその影響をテーマにしたイベントを開催してきました。また、彼の短編を集めた文庫新刊や関連書も続々刊行されています。
 文学紹介者として幅広く活動し、『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫)などの著作でも知られている  頭木弘樹 先生の 『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』 は、常に死を考えつつもその人生を全うしたカフカの日記と手紙を手がかりに、弱くあることの意味を再考する一冊です。「なぜあの人は自殺したのか?」と問われる人はあっても、自殺しなかったからといって「なぜしなかったのか?」と問われる人は珍しい。しかし、カフカはそういう人であった・・・・・・。
 親との関係に苦しみ、執筆と「パンのための仕事」の狭間でもがき、結婚に不安を抱いていたカフカ。等身大の彼を知ってみたいと思う方に、この本はうってつけです。 (E)

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□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(第1金曜日)配信


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