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春秋社 メールマガジン【Vol.062】
   2024年 5月 3日配信
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 巻頭言
 
1918年に創業した春秋社が最初に出版した書籍は、日本で最初の『トルストイ全集』でした。その翌年には『ドストイヱーフスキー全集』、さらに翌年には『大菩薩峠』を出版するなど、弊社は105年を超える歴史のなかで数々の名作文学を出版してきました。
 
この4月、春秋社ではおそらく数十年ぶりとなる海外文学の大型企画 〈アジア文芸ライブラリー〉の刊行がはじまりました。「文学を通じてアジアのこれからを考える」をテーマとして、アジアの同時代の文学作品を邦訳でお届けします。作中に織りこまれたアジア各地の歴史・文化・社会などを知り、現地の空気を感じ取っていただければ幸いです。
 
シリーズ第一作はラサに住む女性作家 ツェリン・ヤンキーによる、シスターフッド小説 『花と夢』 星泉訳)。ラサのナイトクラブで性風俗業に従事する4人の女性たちを主人公に、彼女たちの交流とやがて訪れる悲痛な運命を描いています。急速に都市化するチベットで女性たちが性風俗業に流れ着く背景や、社会に根付く意識や偏見なども描き込まれています。
 
本作はチベット自治区でチベット語で書かれた長編小説としては、はじめて女性の手で書かれた作品です。教育格差や性別役割分業などのあるなかで、チベットでは女性が作家として活動することは簡単ではありません。
 
女性たちの置かれた立場には、日本を含む世界中で共通する問題を見いだすこともできますが、日本の読者からみれば首をかしげるような言動が描かれてもいます。そうした違和感の多くは文化の違いに由来するものですから、疑問を持ちながら読み進めていただくと、より理解が深まることでしょう。
 
アジアではありませんが、昨年末に刊行した アリス・ボータ  『女たちのベラルーシ――革命、勇気、自由の希求』もまた独裁下のベラルーシで民主主義と自由のために立ち上がった女性たちの姿を記録したノンフィクションです。北米や西欧だけではない世界の各地で、困難のなかでも声を挙げて戦っている人々の声に耳を澄ませてゆきたいと思います。(ら)

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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼重版情報
▼新刊案内(4月刊行)
▼近刊案内(5月刊行予定)
▼イベント情報
▼編集後記
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webマガジン「web春秋 はるとあき」

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●好評連載●
「文字の渚」   岩切 正一郎
文学、詩歌、戯曲、映画。古今東西の表現芸術のなかから、言葉の「変形」を読み解き、芸術の持つ力を再考する。
【第9回】本の引っ越し

南台湾各地を舞台に、歴史や伝承を辿りながら知られざる台湾の姿を描き出すエッセイ。

○「人生というクソゲーを変えるための仏教」 ネルケ 無方
人生というクソゲーを遊んで楽しい本当のゲームに変える方法を探る。
【第18回】ゲームについて大真面目に考えた人たち

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト”  「じんぶん堂(powered by 好書好日)では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。 ※毎週木曜日更新(月3回)
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重版情報 ☆
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四六判/224頁/1,870円
全世界に衝撃を与えた『夜と霧』の著者が、その体験と思索を踏まえてすべての悩める人に「人生を肯定する」ことを訴えた講演集。【74刷】

初回放送日:2024年4月21日(再放送4月27日)以後、毎月第3日曜日午前5:00~午前6:00初回放送・第4土曜日午後1:00~午後2:00再放送

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新刊案内(4月刊行)
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社会を有機体として見る。持続可能な未来へ。

●『英国人尼僧、ティク・ナット・ハンと歩む――真実の徳を求めて』
シスター・アナベル・レイティ 著 /  池田 久代
四六判/408頁/2,970円師と出会い、自分の道を見いだした魂の軌跡。

感情をプラスエネルギーに変える方法。

ヨーガ・セラピーの理論と実践を解説。

●『豊子ガイ*の東西芸術比較論――中国近代美学の誕生』 *ガイはりっしんべんに豈
劉 佳
四六判/168頁/4,620円
カンディンスキーから中国近代美学へ。


*今月の営業部イチオシ本*

ツェリン・ヤンキー 著 / 星 泉
四六判/308頁/2,640円

ラサのナイトクラブで働きながら場末のアパートで身を寄せ合って暮らす四人の女性たちの共同生活と、やがて訪れる悲痛な運命……。家父長制やミソジニー、搾取、農村の困窮などの犠牲となり、傷を抱えながら生きる女性たちの姿を慈愛に満ちた筆致で描き出す。チベット発、シスターフッドの物語。英国PEN翻訳賞受賞作。
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近刊案内(5月刊行予定)
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『親鸞と救済』
本多 弘之
四六判/260頁/3,300円
真宗大谷派講師(学階の最高位)の著者が、大思想家曽我量深、安田理深の言に導かれながら、真宗聖典を論じ、世俗化した現代に再び阿弥陀如来の本願との縁をつなぐ講義録。
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『剣之術――火と水の結び』
松浦 眞人
四六判/256頁/2,750円
「切り・結ぶ」――武による「動の思想」とは何か。古伝の教えに導かれつつ、その本質的意味を読み解き、心技体の統一のためのメソッドを紹介。武道と能楽を修めての東西文化論。
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『[近江ARSいないいないばあBOOK]別日本で、いい。』
松岡 正剛 編著 / 福家 俊彦 末木 文美士 執筆代表
A5判/458頁/3,300円
松岡正剛、畢生の大作。この国の精神文化の内奥を湛え、生粋の先達を抱きとめてきた近江の地。その「虚」なる懐は、今世界が失いつつある「別様」の可能性を炙りだす。
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『[アジア文芸ライブラリー]南光』
朱 和之 著 / 中村 加代子
四六判/392頁/2,860円
日本統治時代の台湾に生まれた写真家・トウ南光(トウは登におおざと)をモデルにした歴史小説。彼のライカは、モダン都市・東京、そして戦争から戦後で大きく変わりゆく台湾の近代を写し出す。
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『[春秋社音楽学叢書] 史料で読み解くベートーヴェン』
大崎 滋生
四六判/468頁/5,280円
ベートーヴェンの伝記や作品史を構成してきた数々の逸話と対峙し、その真実性をあらためて検討。作曲家の社会的・経済的な営みから創作活動の実態をとらえる。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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□営業部だより□
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年度代わり早々に、 ルドルフ・シュタイナー研究の第一人者である 高橋巖氏の訃報がもたらされた。その日は奇しくもシュタイナーの命日でもあった。ご高齢の御身であるにも関わらず、現在に至るまで精力的な活動を継続され、その功績は著作だけでも相当なものであっただけに、謹んでお悔やみを述べる次第である。

高橋氏は自身の講演のなかで、我々は二十一世紀という同じ時代を共有しながら生きていて、そのことには何らかの特別な意味があるはずだが、人類はそのことを考えないまま生きてきた、という趣旨の発言をされている。 [1]当たり前のようではっと考えさせられる視点である。

また、シュタイナーは講演の中で「私たちがこの世を生きている者同士として関わり合っているように、死者を死者としてではなく、私たちの中に生きている者同士であり、私たちと一緒に生きて、創造している者であると思えなければなりません。」 [2]と述べている。”死んだら終わり”とはよく言ったものだが、死してなおその存在に敬意を払い、尊重することは生者たる我々の責務とも言えるだろう。

”別れが、死よりも苦しいのは、何も春のせいではないが、季節は時には残酷なものに映るのだ。” [3]とは凡そ半世紀前の小社の社員が遺した言葉であるが、二人の死生観を自らに落とし込んだ上で、生者たる我々がどのように生きるか、深夜のファーストフード店の喧騒の中で自問自答する春の一幕であった。(鼓)


[3] 「春秋」No.184 (1977年 5月号)

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□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(第1金曜日)配信


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